今回扱うのは、第百四段。冒頭部分を紹介すると…荒れたる宿の人目なきに、女の憚る事あるころにて、つれづれと籠り居たるを、ある人とぶらひ給はむとて、夕月夜のおぼつかなき程に、忍びて尋ねおはしたるに、犬のことごとしく咎むれば、げす女のいでて、「いづくよりぞ。」といふに、やがて案内せさせて入りたまひぬ。ある女性が人目をはばかって粗末な家に侘び住まいをしていた。そこに高貴な身分の男性が、夕暮れの月あかりの中を忍んで訪ねてきた。情景描写が非常に細かく、情感たっぷりに語られる男女の切ない一夜のお話。この段は、兼好が伝聞等から既述した小説的なものというのが通説。しかし泉美さんは作家の感性と探偵の分析力で、今まであまり言われていない、しかし説得力のある新解釈を披露!