難病と闘う患者が、通常の治療で手を尽くしても望ましい結果を得られなかったとき、どうすればいいだろうか。リスクを引き受けてでも、まだ広く受け入れられていない治療にチャレンジしたい、という患者は現実にいる。そのような選択は「保険外診療」として、つまり保険の対象にならない自己負担の治療として認められてきた。しかし、いまの保険の制度は、保険診療を受けながら同時に自由診療を受ける、いわゆる混合診療を認めていない。このことは保険診療の質を安定させるために必要とされてきたが、保険適用外の治療を患者の手から遠ざけてきた面も否定できない。2014年11月5日に行われた中央社会保険医療協議会では、「患者申出療養(仮)」の制度化に向けて、次期国会に法案が提出されることが決まった。この制度はメディアで「混合診療の解禁」と呼ばれ、多くの患者に新しいチャンスを与えるとともに、医療経済の風景を一変させるのでは、という観測もある。新制度のもと、患者の自由と平等はどのように変容するのだろうか?よりよい医療のために数多くの提言を続けてきた上昌広が、ゲンロンカフェ2度目の登壇で新制度を考える。上昌広(かみ・まさひろ)東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門特任教授93年東大医学部卒。97年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床研究に従事。05年より東大医科研探索医療ヒューマンネットワークシステム(現 先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。